薄型テレビで世界トップシェアを争う韓国サムスン電子とLG電子。その最先端技術に関する情報が、イスラエル企業を通じて海外に流出し、韓国検察が捜査に乗りだした。流出したのは、韓国経済を牽引(けんいん)する両社が今後の世界戦略の中心に据える有機EL(エレクトロルミネッサンス)テレビ技術。韓国では「国家的損失だ」と大騒ぎになっている。
 海外への情報流出が明らかになったのは、韓国勢が技術面でも世界で先頭を走るアクティブマトリクス式有機ELパネル製造技術。これまで主流だった液晶パネルが、画像などを表示する際にバックライトなどの発光体を備えなければ機能しなかったのに対し、有機ELはパネルそのものが光を出す性質を持っているため、ディスプレー装置の大幅な薄型・軽量化が可能となる。次世代の大型薄型テレビやスマートフォンのコア・テクノロジーと目される技術だ。

韓国メディアによると、サムスンは4年の期間と1兆1000億ウォン(約759億円)を投じて同技術を開発したとされる。韓国では法律で「中核産業技術」に指定され、「産業界の国宝級技術」(韓国司法当局幹部)と形容されるほどだ。韓国検察によると、流出事件は、昨年11月から今年1月までの間に、サムスンとLGのパネル工場に検査機器の点検を装って出入りしていたイスラエルの検査機器供給会社の韓国支社に勤務する韓国人社員らが、設計回路図を撮影する手口で起きた。カード型USBメモリーなどに保存したデータを財布やベルト、靴などに隠して持ち出したという。すでに逮捕者が出ており、捜査の過程で、盗み出された技術情報が中国や台湾の企業に売却されてしまった可能性もあることが判明。サムスン、LGの経営陣に衝撃が走っている。

 次世代テレビの主力と目される有機EL技術は、ソニーが2007年に11型テレビを発売し先行したが、価格面などで成功しなかった。韓国勢は着々と開発を進め、サムスン、LGは、年内に55型の有機ELテレビを発売する予定を明らかにするなど、独走態勢にある。一方で、中国・台湾勢の追撃も急で、韓国勢にとって最大の懸念となっていた。その中で起きた今回の事件とあって、両社は技術流出の損害を「天文学的」と指摘し、「ディスプレー産業界の勢力図が塗り変わる恐れすらある」と指摘している。ただ、この技術をめぐってはすでに、LG側がサムスン側から人材を引き抜いて情報を得た疑いが持ち上がり、刑事事件にまで発展している

 今年4月、サムスンの子会社「サムスンモバイルディスプレー」でパネル開発にかかわった40代の元研究員が、産業技術の流出防止および保護に関する法律違反などの容疑で逮捕された。この元研究員は、サムスンの新型ディスプレー方式の開発を主導しておりLG側に1億9000万ウォンの報酬で技術情報を引き渡したという。さらに、LG側が事前の約束に反して役員ポストの提供を拒むと、今度は中国企業に接触して「技術の二重売り」(サムスン関係者)を図ったとされるから、韓国企業間の「仁義なき戦い」ぶりもすさまじい。

 事件を受けサムスン側は声明を出し、「(会社ぐるみの)犯罪だったことを認め、事件にかかわった経営首脳部の誠意ある謝罪を望む」とした上で、事件を「技術と人材流出の犯罪」だと断罪した。これに対しLG側は「国内には高度なディスプレー製造企業が2社しか存在せず、人材移動は不可避。こうした状況を無視して国内での人材再活用を滞らせれば、優秀な人材は海外に流出する」とし、これを防ぐためには「人材の国内での囲い込み」が必須であると反論している。

 最先端技術や人材の流出をめぐっては従来、日本から中台韓への流れが大きな問題とされてきた。技術流出は電機や自動車分野だけにとどまらない。今年4月には、新日本製鉄が韓国の世界的製鉄会社「ポスコ」や元社員を相手取り、1000億円の損害賠償を求める訴訟を起こしている。「企業は、どこの国であろうと、巨額の開発費をかけた技術の流出防止のため、次には人材引き留めにもカネと神経を消耗しなければならない時代になった」。韓国に駐在するある日本メーカーの幹部は、こう指摘している。