グローバルでテレビ最大手のサムスン電子が、次世代の薄型ディスプレイ技術と目される有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)の普及に向けて渾身の一手を打った
液晶パネル部門を分社化し、4月1日に設立する全額出資の新会社「サムスンディスプレー(仮称)」の設立がそうだ。
サムスン電子の液晶パネル事業は2011年10~12月期に2200億ウォン(約157億円)の営業赤字に沈むなど、同期まで4四半期連続で赤字。
もちろん同業他社と比較して赤字の程度は浅いが、事業の赤字を許容しないグローバルエクセレンス企業として明確な方向舵を切った。
その決断力・リスクティキングには敬意を表したい。

この新会社は、液晶パネルの製造設備を次世代の有機ELテレビ用に転用するなどして、収益改善を急ぐ。スマートフォンやタブレット端末向け中小型液晶パネルや有機ELパネルを生産する「サムスンモバイルディスプレー」と、新会社を合併させることも検討中だ。
 サムスン電子は、サムスンディスプレーから有機ELパネルを調達し、今年中に55型の有機ELテレビを発売する。さらに今年1月にソニーと折半出資を改め、100%子会社化した液晶テレビ用のパネル合弁会社「S-LCD」との統合も視野に入れる。
 サムスンディスプレーを軸にテレビ最大手の地位を揺るぎないものにする。
ただし、サムスン電子の思い描くストーリー通りになるとは限らない。


分社化により独立採算制を明確化すれば、当初は採算が厳しいテレビ向け有機ELパネル事業を、別の黒字事業で戦略的に補填することが難しくなる。製造ラインの稼働初期は歩留まりが低く、パネル1枚当たりの製造コストが高い。サムスンディスプレーは有機ELテレビ用パネルの歩留まりを改善しつつ、自力で生産効率を高める必要がある。
 液晶テレビ向けのパネルでは、S-LCDで歩留まりを改善させてから、サムスン電子が単独で新工場を立ち上げ、効率よく液晶パネルを生産していた。歩留まりの低い初期段階の投資は、ソニーと負担を折半できていたわけだ。
 これに対して、有機ELテレビ用のパネル生産ではサムスンディスプレーがすべてを負う。ソニーから資金援助を受けた液晶テレビの時よりも、大きな負担を覚悟せねばならない。
しかも液晶テレビが本格普及した2000年代は、ブラウン管テレビからの買い替え需要が販売を後押しした。「テレビの薄型化」という明確な付加価値があり、多少値段が高くても売れた。今は状況が異なる。
業界アナリストは「液晶テレビとの価格差を1.2倍まで縮めないと、有機ELテレビは本格的に普及しない」と言う。有機ELテレビの売り物である厚さ数mmという付加価値は今ではそれほど魅力はないと判断する。
液晶テレビは米国市場で今年中に55型が1297ドル(約10万4000円)まで値下がりする見通し。サムスン電子が発売する有機ELテレビの価格は当初、この4倍以上となる可能性が高い。
業界筋では「有機EL材料を画面に真空蒸着する現行の製造法は、真空装置のコストが高い。材料を画面に印刷する製造法を実用化して、価格差を詰める必要がある」と言う。分社しただけでは不十分という見方だ。
 シャープの幹部は、「韓国勢は有機ELテレビの値段を十分に下げられない」と見る。パナソニックの幹部は、「有機ELテレビは普及しない」と言い切る。
そうであれば徹底的に有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)からスタンスを取り、隔離し寄り添ってはいけない。

しかしシャープ・パナソニックとも液晶テレビ事業の赤字に苦しんでいる。ソニーもしかりだ。各社とも次世代テレビの商品化にメドが立たず、成長戦略が描けていない。

かといって想定されるサムソン得意の懐柔策に乗ってはいけない。技術競争と事業競争は峻別しサムソンを孤立化する戦略をとる必要になる。
サムソンの戦略を絵に描いた餅にするためには、決然とした位置取りが必要なのだ。

薄型テレビの覇者として独走するサムスン電子は次なる飛躍に向け大きな賭けに出た。そして日本メーカーの対応は如何に。