産業革新機構は官民の出資で設立され、2009年7月27日に営業を開始した。官民の出資金と政府保証枠を加えると約9000億円になり、この資金で投資する。その目的は、短期的な金儲けではなく、中長期的に日本にとって有益な産業を育成することにある。営業開始以来、これまでに合計18件、約3200億円の投資を決めている。そのうち2000億円と過半を投じる先がジャパンディスプレイである。
ジャパンディスプレイは、ソニー、東芝、日立製作所の3社の中小型ディスプレイ事業を統合する新会社である。携帯電話機の需要一巡で将来を悲観する声があった中小型ディスプレイ事業だが、最近になってスマートフォンやタブレットPC、軽量ノートPC(米Intel Corp.のUltrabookなど)の需要拡大で再び脚光を浴びている。
同氏の見せたスライドによれば、こうした機器がけん引役となり、2010年に1.6兆円だった中小型ディスプレイの世界市場は2015年には4.2兆円に拡大するという。年率21%の成長である。高成長が見込める市場をターゲットにしていることが、ジャパンディスプレイへの大型投資の第1の理由である。
第2は、日本が技術的に優位にあることだ。高画質、高速応答、広視野角、3次元表示、投影表示、信頼性などに関する技術を3社連合が持っている。これは、上述したスマートフォンやタブレットPC、軽量ノートPCはもちろんのこと、これらに続いて中小型ディスプレイの需要が立ちあがってくる車載やメディカル用途でも、ジャパンディスプレイが強みを持つこと意味している。同氏によれば、3社統合後の中小型市場のジャパンディスプレイのポジションは金額ベースで1位、数量ベースでは3位だが、今後はより強くなるという。
第3の理由は、関連産業も日本が強いことである。ディスプレイ世界市場における日本メーカーのシェアは約40%だが、その部材市場では、日本のシェアは約55%、製造装置市場に至っては約80%に達する。ジャパンディスプレイの成功は、こうした関連産業でも日本を潤すことが期待される。
ジャパンディスプレイの2012年3月期の売上高は(3社単純合算の見込み値)、5700億円である。それを2016年3月には7500億円にし、同時点までに株式上場を目指す。これがジャパンディスプレイの目標である。
谷山氏の講演内容は、ほぼ、景気のいい話で一杯だったが、実際にはそれ相当な苦労があったようだ。「準備段階を含めて、ジャパンディスプレイは無理かと思うことがこれまでに5回あった」(同氏)。「ソニー、東芝、日立製作所のためではなく、ジャパンディスプレイのことを第1に考えることが重要だ」(同氏)とも述べており、苦労の内容が察せられた。最後に「一緒に日本のディスプレイ産業を進展させましょう」と聴講者に呼びかけて、同氏は講演を終えた。
Comment
コメントする