TDKは、2011年3月に量産を開始した透明有機ELパネルについて、そのパネル構造を明らかにした。この有機ELパネルの特徴は、後方が透けて見えること。パッシブ・マトリクス方式で、画面サイズは2.4型。画素数はQVGA(240×320画素)で、カラー表示が可能である。既に中国Lenovo社製の携帯電話機に採用されており、この携帯電話機も2011年3月に市場投入が始まっている。なお、TDKは2010年10月の「CEATEC JAPAN」で透明有機ELパネルの試作品を展示していた。

有機ELパネルは、陽極と陰極で有機EL層を挟み、有機EL層に電流を流すことで発光させている。通常は陽極に透明電極、陰極にメタル電極を用いて、陽極側に光を取り出す。透明な有機ELパネルの試作例はこれまでにもあったが、その多くは、陰極にも透明電極を用いるものだった。

 ただ、この方法には二つの問題があった。一つは、有機EL層の上に酸化物などの透明電極を形成することが難しく、量産技術が確立されていないこと。もう一つは、陽極側だけでなく陰極側にも有機EL層からの光が出てくるため、パネルの表側だけでなく裏側からも表示内容が見えてしまうことである。例えば、携帯電話機のメイン画面用途では「裏側からも表示内容が見えるのは好ましくない」と言われていた。

 そこで同社は、これらの問題を回避できる新しいパネル構造を開発した。まず、実績のある製造技術でいち早く量産するために、陰極はメタル電極のままとした。その上で、後方が透けて見えるようにするために、画素全体を陰極で覆うのではなく、陰極の線幅を細くして画素の一部しか覆わないようにした。陰極に覆われていない部分を利用し、後方が透けて見えるようにしている。同社はこのパネル構造を「細線電極構造」と呼んでいる。有機EL層は、画素のうち陰極に覆われている部分だけが光る。ただ、陰極は不透明なメタル電極であるため、有機EL層からの光は陽極側だけに出てくる。従って、ディスプレイの裏面からは表示内容が見えにくくなっている。

 同社は早期の実用化のため、寿命の短い青色材料を使わずに済むように、白色有機ELとカラー・フィルタを組み合わせてカラー表示する方式を採用した。一般に、カラー・フィルタを使うとパネル透過率が低下してしまう。しかし、陰極と同様にカラー・フィルタの線幅も細くして画素の一部だけを覆う構造にしているため、パネル透過率低下の影響は比較的小さいという。なお、今回の透明有機ELパネルの輝度は150cd/m2、透過率は40%である。

 同社はこの透明有機ELパネルを、茨城県北茨城市の「TDKマイクロディバイス」で生産している。生産ラインは2本ある。3月11日の東日本大震災で操業停止を余儀なくされたが、4月8日に1本、5月9日にはもう1本の生産ラインが復旧し、ラインの復旧に応じて生産を再開しているという。