大阪・堺の最先端液晶パネル工場を、7月にフル稼働させるシャープ。世界的なテレビ需要の拡大で3カ月前倒ししたが、それでも空前の活況を前に追いつかない。4月27日の決算会見で片山幹雄社長は「堺を増強しても、液晶パネルの供給不足は当面続く」と語った。
“盟友”の書き入れ時に、ソニーは半ば苦々しい思いに違いない。シャープのパネル工場を分社化した新会社に、昨年12月から出資。出資比率に応じて、新工場で生産したパネルの供給を受けることになっている。
2004年に韓国サムスン電子と合弁会社を設立したソニーだが、パネルの需給バランスは崩れやすい。安定した購買先を確保するためシャープへ出資を決めた。新工場で生まれる莫大なパネルの消化先が確保できるシャープにもメリットはある。
ウィン・ウィンの関係のはずだった。
だが両社の関係者によると、3月ごろからシャープはソニーとの計画に対し最大3割のデコミット、つまり取り決め数量未達を生じさせているようだ。東芝など多数の顧客を抱えており、「あらゆる顧客からの引き合いが旺盛」(シャープ幹部)と想定を超える需要が要因としている。

通常、基幹部品の調達が最大3割も計画割れすることはありえない。ソニーは10年度のテレビ販売台数を前期比1.7倍(2500万台)に伸ばし、サムスンなどへ反転攻勢を仕掛けようと鬨(とき)の声を上げた矢先。シャープの不足分を補うべく、韓国と台湾からの緊急調達に追われるテレビ関係者は「なぜパネルを寄こさない」と怨嗟の声を漏らす。

勝負時の大幅なデコミットは今後、両社の合弁会社をめぐる協議にも影を落としそうだ。




[管理人] 納入のデコミットについては、当事者同士じゃないとわからない微妙な原因がある可能性があります。シャープからソニーに納めているパネルは特殊な仕様になっていて、生産に入る一定前からそれらの部材の調達を進めておかなければなりませんからね。
フォーキャストが正しかったのかとか、伝達のタイミングは正しかったのかとか...
Sharpはその辺り厳格に運用します。一方台湾のEMS/パネルメーカーはそれなりに柔軟な運用を見せます。
ソニーの出資比率は現在7%で、11年4月末までに最大34%まで引き上げる予定。両社は追加出資の額や時期について協議を続けているが、ソニー側は「出資額にはオプション(選択権)がある」(幹部)という姿勢。最終的には10%台の出資にとどまる可能性もあるようだ。

一方でシャープ側は「3割以下は考えられない。そのような選択肢を残した覚えはない」(幹部)と食い違っている。

ソニーが追加出資に慎重になる要因は、デコミットだけではない。米ディスプレイサーチによると、世界的に供給不足のパネルも、12年には最大2割近く供給過剰に逆転する可能性があるという。中国で12年稼働を目指し複数社がパネル生産投資を進めており、価格の大幅下落も予想される。業界で「2012年問題」として懸念されている。

ソニーにとっては、2年待てば容易にパネル調達ができるようになる。むしろ最大限の34%出資をした場合、パネル合弁の業績悪化が持ち分損益にはね返り、自社業績の重荷となる可能性もある。資産圧縮による固定費削減を志向するハワード・ストリンガー会長にとって、追加出資の意味は見いだしにくいだろう。

新たなパートナーもソニーに急接近している。EMS(電子機器受託生産サービス)の世界最大手、台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)だ。ソニーは鴻海に今年9月末までに二つのテレビ組立工場を売却し、欧米向けテレビ生産の大部分の委託を進めている。将来的には、パネル調達の委託も検討している。

ソニーは過去にも鴻海からパネルでの提携を持ちかけられたことがある。03年ごろに郭台銘CEOがソニー幹部に「パネル生産を始めるので合弁しないか」と打診したが、当時は鴻海側に技術や生産実績がなく実現しなかった。

だが昨年に世界4位のパネルメーカーである台湾・奇美電子を買収するなど、現在はグループ全体ではシャープを上回る供給力を持つまでになった。鴻海はソニーにとって強力なパートナーであり、シャープにとってサムスンに続く新興ライバルともなりうる。

産業の趨勢が変われば、企業戦略も変わってくる。ソニーとシャープの合弁の行方も揺れている。