部品から最終製品まで一貫生産するサムスン電子の巨大化によって、台湾経済をけん引するハイテク産業が深刻な危機に陥っている。台湾を代表するスマートフォンブランドの宏達国際電子(HTC)やパソコンの宏碁(エイサー)がし烈な競争で大きな痛手を負い、川上のDRAM、液晶パネルという年産額1兆台湾元(約2億6,500万円)の基幹産業だけでなく、新1兆元産業である発光ダイオード(LED)まで傷口が広がっている。20日付中国時報が報じた。
行政院主計総処が17日に発表した今年通年のGDP(域内総生産)成長率予測は1.66%と、7月末時点の2.08%から下方修正され、ライバルと目する「アジア四小龍」の韓国、香港、シンガポールの中で最低となった。背景には、財政部発表の1~7月輸出総額が前年同期比5.8%減の1,716億5,000万米ドルで、特に情報通信製品は同23.3%減の90億9,000万米ドルと、大幅なマイナス成長に陥っていることがある。

 スマートフォン大手、HTCはサムスン「ギャラクシー」やアップル「iPhone」との競争で、上半期の出荷台数が昨年同期の4分の3に押さえ込まれ、今年1~7月売上高は3割以上減少した。




 マイクロソフトのウィンドウズOS(基本ソフト)とインテルのCPU(中央演算処理装置)搭載「ウィンテル」製品が長期にわたって主導権を握ってきたPC市場でも、サムスンのほか、アップル「iPad」などタブレットPCが勢力を拡大。エイサーが昨年販売台数は2割減、損失66億元を出すなど、台湾ノートPCブランド、受託メーカーは伸び悩みを余儀なくされている。
 最終製品の劣勢の影響はブランド各社にとどまらず、サプライチェーンまで広がっている。

 工業技術研究院(工研院)の統計によると、台湾DRAMメーカーの世界市場シェアは8%まで落ち込み、サムスンの42%に全く及ばない。モバイルメモリーはサムスンがシェア7割を占める。

 大型液晶パネルのシェアは韓国メーカーの53%に対し、なんとか37%を維持しているが、台湾大手2社、友達光電(AUO)、奇美電子(チーメイ・イノルックス)は上半期の損失が合計約400億元に上った。サムスンがスマートフォンに採用している中小型アクティブマトリックス式有機EL(AMOLED)パネルに至っては、同社が世界市場シェア97%以上を握る。こうした中、有機EL(OLED)産業全体の今年の生産額は33億7,500万米ドルが見込まれるが、台湾は4億5,000万米ドルと、韓国に5倍以上の差を付けられる見通しだ。
しかもサムスンはLED大手の晶元光電(エピスター)、パッケージング大手の億光電子工業(エバーライト・エレクトロニクス)から人材を数百人規模で引き抜いたと経済誌『商業周刊』に報じられた。エピスターの李秉傑董事長は、台湾LED産業は昨年韓国に抜かれて世界3位に転落しており、垂直統合を進めて出荷先を確保しなければ、台湾はLEDの受託メーカーに成り下がると警告した。

 サムスンの強さは一貫生産体制のほか、早くから韓国政府の支援を得ていることもある。こうした中、日本もソニー、東芝、日立製作所の中小型パネル事業を統合し、産業革新機構の出資を受けてジャパンディスプレイを立ち上げた。もちろん中国は国を挙げてパネル産業の生産能力大幅増強に取り組んでいる。
 一方、中華経済研究院は、台湾ハイテク産業構造の問題点はリソースの分散だと指摘した。例えば研究開発(R&D)にサムスンが1社で5元かけるところを、台湾ならDRAM5社で1元ずつ投じているようなものだと説明した。