16日付工商時報によると、EMS(電子機器受託製造サービス)世界最大手、鴻海科技集団(フォックスコン)は、シャープブランドの60インチ液晶テレビを年内に999米ドルで市場に投入することを計画している。現在の市価の3~4割引という超低価格で、年末に60インチテレビを発売するとみられる高価格路線のサムスン電子に勝負を挑む考えだ。ただ、シャープと共同運営する第10世代液晶パネル工場(堺ディスプレイプロダクト=SDP、旧シャープディスプレイプロダクト)の稼働率向上には貢献するものの、日本のブランド力を殺すに等しく、サプライチェーン全体にも打撃を与えるとの見方もある。
 鴻海の大型テレビ低価格戦略は、低迷するSDPの設備稼働率向上、およびサムスンのテレビ事業への挑戦が目的とみられている。

 郭台銘・鴻海董事長は先月、SDPの株式46.5%を取得しており、シャープの赤字の大きな原因だった同工場の稼働率を、30%余りから年末には80%まで引き上げる考えだ。なお、サムスンは第4四半期にアクティブマトリックス式有機EL(AMOLED)パネル搭載のテレビを、アップルは年末から来年初めにかけてインターネット機能を併せ持つスマートテレビ「iTV(通称)」を発売するとみられる。



 鴻海の刑治平広報担当は、従業員のうわさ話かマスコミの推測かは分からないが、観測には回答しないとコメントした。また、SDPの稼働率向上のため、空港や量販店、ホテルなどで使う超大型ディスプレイをターゲットに定めて社内に専門チームを立ち上げたとの観測に対しても、コメントしないと述べた。
 市場調査会社、ディスプレイサーチの謝勤益・大中華区副総裁は、第10世代工場で60インチの液晶パネルを生産するコストは1枚700~720米ドルで、液晶テレビ生産コストは1台1,200米ドルほどだと指摘。液晶テレビを999米ドルで投入するならば、シャープが材料費相当の約500米ドルでパネル提供に同意したと考えられ、鴻海の出資は特許権使用料のようなものだとの見方を示した。

 謝副総裁は、鴻海・シャープ陣営が大型テレビを投入すれば、パネル業界にはメリットもデメリットもあるとの見解だ。メリットは、55インチ以上の液晶テレビ市場は今年の出荷予測が1,000万台と、市場全体2億1,000万台の5%にも満たないが、価格が需要を喚起する「スイートスポット」に到達すれば急速に拡大する可能性があり、パネル業界にもプラスに働くためだ。一方で、60インチ以外のサイズの液晶テレビ価格も値下げせざるを得なくなれば、テレビブランド、受託メーカーだけでなく、パネルメーカーにもしわ寄せが及ぶと指摘した。

 液晶パネル大手、友達光電(AUO)の李焜耀董事長は先日、シャープパネルの低価格戦略は日本ブランドの(高価格・高品質の)位置付けを揺るがすと批判。60インチ液晶テレビを投げ売りすれば、主流である32、40インチ機種の在庫が積み上がり、パネルメーカーはさらなる値下げを迫られると訴えた。

 李AUO董事長は、鴻海が社員向けに60インチ液晶テレビを中華電信のマルチメディア・オン・デマンド(MOD)サービスとセットで4万台湾元(約10万5,500円)で販売するという市場観測に対し、「低価格での在庫一掃とはひどい」と語った。鴻海は15日、こうしたプランはないためコメントできないと表明した。市場では同日、郭董事長の怒りを招き、突然中止されたとの観測が流れた。