東芝,シャープ,日立――。中小型液晶パネルの新工場に関する新聞報道が,この2週間で相次いでいる。
「東芝が液晶新工場」(日本経済新聞,2010年12月14日付),「シャープ,液晶1000億円投資」(同,12月17日付)という見出しの記事に続き,同紙は27日の朝刊で日立製作所の台湾Hon Hai Precision Industry Co.,Ltd.(鴻海精密工業)との合弁,および液晶子会社の日立ディスプレイズの経営権譲渡と新工場投資について報道した。
日立製作所は「当社として決定・公表したものではありません」としている(ニュース・リリース)。ただ,日立製作所は日立ディスプレイズの経営権をキヤノンに譲渡しようとしたのが計画倒れになった経緯があり,別の企業に経営権を譲渡しようとするのは自然な流れといえる。また,スマートフォンやタブレット端末の需要が旺盛なことから,こうした電子機器を受託生産しているHon Hai社がパネルの安定調達を図るために日本のパネル・メーカーを傘下に収めて生産能力を拡大することも十分に考えられる。
このような背景から,日立が中小型パネルの生産能力を拡大することは「織り込み済み」とするFPD業界関係者は多い。ただ,世界シェア6位と低迷している日立ディスプレイズが,EMS(電子機器の受託製造サービス)世界最大手のHon Hai社のもとで新工場投資をすることにより,中小型パネル・メーカーの競争が激化するのは確実である。他のパネル・メーカーにとっては,日立ディスプレイズが強力な競合相手としてにわかに浮上することになる。
スマートフォンやタブレット端末向けの中小型パネルでは,米Apple Inc.が人気商品の「iPhone」や「iPad」でIPS液晶パネルのみを採用していることから,このIPS液晶を製造する韓国LG Display Co., Ltd.が高いシェアを持っている。日立ディスプレイズは,世界で最初にIPS液晶パネルを量産化したメーカーである(当時は日立製作所)。新工場投資によりパネル生産能力を確保できれば,IPS液晶の高い技術力を強みとして,シェアを拡大できる可能性がある。また,東芝の液晶子会社である東芝モバイルディスプレイやシャープはこれまでIPS液晶パネルをほとんど生産してこなかったが,今後はスマートフォンやタブレット端末向けにIPS液晶パネルを供給するもようである。
日本メーカーがIPS液晶パネルに集中するのに対して,韓国Samsungグループは有機ELパネルとIPS液晶パネルの両面作戦を取る。Samsung Mobile Display Co., Ltd.(SMD)は親会社であるSamsung Electronics Co., Ltd.のスマートフォン「Galaxy」に有機ELパネルを供給しており,有機ELはGalaxyの売り文句の一つになっている。また,有機ELパネルでは競合相手がほとんど無いことから,Samsungグループのパネル事業の中でも極めて高い収益を生み出している。SMD社は有機ELパネルの第5.5世代ライン(ガラス基板寸法は1300mm×1500mm)による量産を2011年に開始する予定であり,他社を圧倒する規模の有機ELパネルの量産体制を構築しつつある。一方,Apple社のように液晶パネルのみを採用する顧客に対しては,Samsung Electronics社の液晶パネル事業部門が対応する。同社もシャープなどと同様にこれまでIPS液晶パネルを生産してこなかったが,今後はIPS液晶パネルを供給するもようである。


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