日立製作所が赤字続きの中小型液晶事業を立て直すため、台湾の鴻海精密工業と提携する。子会社の日立ディスプレイズ(日立DP)は、液晶技術で優位に立ちながら主要顧客が国内の携帯電話機メーカー中心だったため、業績が低迷してきた。EMS世界最大手である鴻海のグローバル戦略を担うことで生き残りを図る。

日立製作所が中小型液晶パネル事業で、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業と資本提携交渉を進めていることが27日、明らかになった。生産子会社の日立ディスプレイズ(日立DP)に対し、1千億円規模の出資を受け、経営権を鴻海側に譲渡する案が有力。交渉がまとまれば、鴻海の出資を元手に千葉県茂原市の工場を増設。スマートフォン向け液晶パネルなどの需要増に対応する。
鴻海はEMS(電子機器の受託生産サービス)の世界最大手で、米アップルのスマートフォン「iPhone」の多くを中国で生産している。傘下の奇美(チーメイ)電子が中小型液晶パネルを手がけており、日立DPを傘下に収めれば、中小型液晶パネル分野で、現在、世界生産シェア首位のシャープと肩を並べる規模になる。
日立DPは、どの角度から見ても画面の色がほとんど変わらない技術を持つが、ここ数年、海外メーカーとの競合で業績が低迷。2007年12月に日立が経営権をキヤノンに譲渡する方針を発表したが今年9月、市場動向の変化を理由に撤回していた。
日立はキヤノンに代わる提携先を探す中で、アップル向けの供給力を引き上げたい鴻海を交渉相手に選んだとみられる。
現在の日立DPの出資比率は、日立が75.1%、キヤノンが24.9%。鴻海が1千億円程度を出資すれば、鴻海の持ち株比率が過半を占めることになる。


<解説>
日本の液晶業界の設備再投資が大きく進む。もちろん大型液晶の投資と比べると規模・金額ともに小規模であることは否めないが、この中小型高精細LCDカテゴリーで日本がグローバルにカテゴリーキラーとなり得る可能性が大きくなってきた。
この動きの水先案内人となったのはApple。中小型の液晶表示デバイ分野に新たな息吹を吹き込んだ。コモディティになりさがっていたデバイスが差別化(Differenciation)の要素になることを実証、その中核となるデバイス設計・製造技術を正当に評価し、差別化できる魅力的な商品群を今後世に出していく宣言だ。
中国や台湾・韓国でも作れるOff-the-Shelfの世界から、日本でしかできないCore-competenceデバイスへと、戦うフィールドを切り替えていく、なんともありがたい存在にAppleがなった。

ただその日本とAppleをつないでのが、日立(日立DP)の場合は台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業。現時点で、どのような経営形態になるのか不明だが、台湾側が主導権を握るのは明らか。彼らの場合、日本に対する敬意は欠かさないだろうが、コストに対する要求はかなり強烈。いままでの日立流が通じるのかは、まったく不明だ。

一方の東芝(TMD)のケースは、Appleが直接投資支援を行う。これは稀なケースであるが、Appleとしてはこの程度の固定費の負担は将来的に無駄にはならないと判断したものと思われる。

日本企業側は、どのくらい前からこのような提携を視野に入れていたのだろうか?
両会社とも、余剰な人材の放出は済んでおり精鋭を残している。このことから、かなり以前から、このような提携の戦略を打ち立てていた可能性はある。その点においてはしたたかさを感じる。

提携先との交渉・調整の要素が今後増えてくる。このしたたかさは必要な武器でグローバルに生きぬいていく強みになる。

今後の両社の動向を見守り日本の存在感の変化をたどっていきたい。